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笠利をはじめ奄美大島を旅するとき、気になるのが毒蛇のハブです。奄美大島世界遺産センターの公式Xも、9月の終わりに「ハブが活発になるのは18~27℃ほど」「ハブ、木にも登ります」と投稿し、夜は足元だけでなく草木にも注意するよう呼びかけていました。ナイトツアーでアカマタやオットンガエルと一緒にハブを見た、という旅行者の投稿もあります。
この記事では、鹿児島県大島支庁のハブ情報と、ハブ対策推進協議会が発行する『ハブダス2026』、奄美市の来島者向けの案内、奄美市名瀬の朝沼クリニックの解説などをもとに、ハブの生態と、咬まれないための心得、咬まれたときの応急処置、笠利で抗毒素を備えている医療機関を整理しました。怖がりすぎず、でも油断せずに島を歩くための基本です。
ハブはどこにいて、いつ活発になるのか
まずは、ハブがどんな生き物なのかを見ていきます。鹿児島県大島支庁によると、奄美群島は気候的に亜熱帯に属し、蛇にとっても住みやすい場所で、陸にすむ蛇だけでも9種類がいるとされています。その中でハブがいるのは、奄美大島、加計呂麻島、請島、与路島、徳之島だけです。
奄美大島・徳之島の毒蛇4種類と、活発になる気温・時間
大島支庁は、ハブを毒性や凶暴性、生息密度、被害の多さのどの点でも世界屈指の毒蛇だと紹介しています。現在も、奄美群島では年間40人前後が咬まれているそうです。『ハブダス2026』によると、奄美大島と徳之島の毒蛇は、ハブ、ヒメハブ、ガラスヒバァ、ヒャンの4種類で、ハブはその中で最大の蛇です。色の違いから、金ハブ、銀ハブなどと呼ばれることもあります。また、ハブとヒメハブはクサリヘビ科、ガラスヒバァはナミヘビ科、ヒャンはコブラ科で、ハブ、ヒメハブ、ガラスヒバァの毒は出血毒、ヒャンの毒は神経毒と分類されていました。
朝沼クリニックの解説によると、奄美でマムシと呼ばれることがあるヒメハブは、本土のマムシとは別の蛇です。ヒメハブの毒は弱く、筋肉が壊れる心配もないため血清は作られていませんが、症状が極めて強い場合は、共通する酵素があることからハブの抗毒素で代用することがある、と書かれていました。
ハブの毒について、奄美市の案内は出血毒だと説明しています。咬まれると激痛と腫れが広がり、筋肉が溶かされ、ひどい場合は死亡することがあります。『ハブダス2026』は、令和7年10月に奄美群島でハブによる咬傷死亡事故が起き、死亡者が出たのは平成26年以来、11年ぶりだったと伝えていました。
奄美市によると、ハブは18〜30℃で最も活動しやすく、1年の中では4〜6月と9〜10月が活動の盛んな時期です。最も活動しやすい気温を、奄美市の案内は「特に24℃前後」、『ハブダス2026』は「特に27℃前後」としており、資料によって少し違います。冬は気温が下がって動きが鈍るといわれますが、1年を通して野外にいることは変わりません。
ハブは直射日光に弱く、日光を避けて草木の陰にいることが多い蛇です。奄美新聞の2024年の記事では、奄美観光ハブセンターの職員が警察署の研修で、ハブは冬眠をせず年中活動し、紫外線を避けて夜間や、日中でも雨の日に出てくると解説していました。
奄美市によると、ハブの1日の行動範囲は100メートル以内で、一度見かけたら、まだ近くにいると考えて注意が必要です。餌の80%以上は野ネズミで、ほかに鳥やトカゲ、カエルも食べます。ネズミが集まる場所には、ハブも来やすいということになります。
奄美新聞の同じ記事によると、奄美警察署の管内では2023年にハブに関する要請が約20件あり、署は毎年、転入した署員を対象に、奄美観光ハブセンターで捕獲や退治の研修を行っているそうです。住民からの捕獲の要請に備えるためで、新人の署員も実物を使った捕獲棒の扱いを学んでいました。島では、ハブは日常の中で向き合う相手だということが伝わってきます。
咬まれないための7か条
次に、ハブに咬まれないための心得を見ていきましょう。奄美市の来島者向けのパンフレットは、ハブ対策推進協議会の情報をもとに、「ハブに咬まれないための7か条」をまとめています。旅行者がすぐに実行できるものも多い内容です。
道の真ん中を歩き夜は照明を、草むら・小屋・川岸での決まりごと
7か条のうち、旅行中にまず意識したいのは三つです。一つ目は「道路の中央を歩く」、二つ目は「不用意に草むらに入らない」、三つ目は「夜は照明を持って歩く」というものです。草むらに近い道の端は、ハブが潜んでいるかもしれない場所に近づくことになります。
『ハブダス2026』に載ったハブ情報(令和8年5月分)は、少し気温が下がる夜間にハブの活動が活発になるとして、お祭りの帰りやキャンプ、バーベキュー、花火など夜に外出するときは十分注意するよう呼びかけていました。笠利の夜の海辺や集落を歩くときも、ライトで足元と道の脇を照らしながら進むと安心でしょう。
また、ハブはS字形に曲げた体を一瞬で伸ばして咬みつき、全長の3分の2の距離までが攻撃範囲になるとされています。そのため、ハブを見つけたら1.5メートル以上離れるよう案内されています。写真を撮ろうと近づいたり、棒でつついたりするのはやめておきましょう。
残りの4か条は、草むらや建物に入るときの決まりごとです。家の周りの草や木の枝を刈ってハブやネズミの隠れ場所をなくすこと、草むらに入るときは深い長靴を履き、棒であらかじめ叩いてから進むこと、小屋などの戸を開けて入るときは上下左右と頭上を確かめること、の三つです。
さらに、草むらや川岸で作業するときは、つばの大きな帽子、厚手の長袖シャツ、革手袋、脚はん、長靴を身につけるようにと書かれていました。頭上を確かめる、帽子をかぶるといった項目があるのは、世界遺産センターの投稿にもあったとおり、ハブが木にも登るからだと考えられます。
奄美市のパンフレットは、島の人たちはハブを生活の中で恐れる一方、ともに奄美に暮らす生き物として敬意を持ち、草むらや森、川にむやみに立ち入らないことを幼いころから教えられてきた、と紹介しています。こうしたハブと共生してきた暮らしが、世界自然遺産に登録された奄美の自然を守ってきた、とも書かれていました。
咬まれたらどうするか
どれほど気をつけていても、咬まれる可能性はゼロではありません。『ハブダス2026』は、すぐに医療機関で治療を受けることが大切だとしたうえで、医療機関に着くまでの応急処置も、重症化を防ぐうえで極めて重要だと書いています。
『ハブダス2026』の応急処置4つの手順と、抗毒素の早さ
『ハブダス2026』が示す応急処置は4つの手順です。まず、身近な人に助けを求め、走ったりせずに落ち着いて安静にします。次に、携帯用の吸出器などで、傷口から血液と一緒にハブ毒をできるだけ早く吸い出すこと。三つ目は、毒が体に広がるのを遅らせるため、傷口より心臓に近いところをタオルなどできつく縛ることです。
四つ目は、すぐに病院に行き、医師の処置を受けることです。あらかじめ病院に電話しておけば、ハブ抗毒素による治療の準備が早くできる、と添えられていました。慌てて走ると毒が回りやすくなるおそれがあるので、まわりの人に連絡や運転を頼むのが基本です。
応急処置の方法は資料や状況によって異なる場合があります。現地では、電話した医療機関や救急隊の指示に従うのが確実です。
ハブ咬傷の治療では、抗毒素をどれだけ早く打てるかが大切だとされています。朝沼クリニックの解説では、昭和62年前後に県立大島病院で治療した79例を調べたところ、咬まれてから1時間以上たって血清を打った人は入院が長くなり、関節が固まるなど重い障害が残った例もあったと紹介されています。
同じ解説によると、毒が確実に入ったと考えられる例では、30分以内に血清を打った12例の腫れが止まるまでの日数は平均4.3日で、30分から60分以内の12例の平均7.1日より短くなっていました。時間がたつと、毒の周りで血管がふさがり、血清が届きにくくなるためと考えられています。
また、同じページでは、明治時代後半の咬傷者は年平均230名で死亡率は12%だったのが、抗ハブ毒血清の普及や交通網の発達で死亡率が大きく下がったという歴史もまとめられていました。速やかに病院へ運ぶことが命を守ってきたことがわかります。
解説によると、大正時代は年平均250名で死亡率5%、戦前の昭和は年平均260名で2%でした。終戦後は年平均320名に増え、死亡率も3%とやや高くなりましたが、これは農林作業に携わる人が増えたことや、米軍の占領下で血清が手に入りにくくなったことが原因と考えられています。昭和63年に2名が亡くなった後は死亡者がなく、平成に入ってからは咬傷者も年平均98名前後に半減した、とまとめられていました。
笠利で知っておきたい病院と最近の発生状況
最後に、笠利の旅で知っておきたい医療機関と、最近の咬傷の傾向を見ておきます。いざというときに迷わないよう、泊まる場所や行き先の近くでハブ抗毒素を備えている医療機関を、出発前に確かめておくと安心です。
笠利の抗毒素を備える医療機関、6月と9月・手に多い被害
『ハブダス2026』には、令和8年1月1日現在でハブ抗毒素を備蓄している医療機関の一覧が載っています。奄美市笠利では、笠利町中金久にある笠利国民健康保険診療所と笠利病院の2か所が挙げられていました。名瀬では県立大島病院、名瀬徳洲会病院、奄美中央病院、朝沼クリニック、つばたクリニックの5か所でした。
龍郷町には、赤尾木の肥後医院、秋名の肥後診療所、瀬留の竜郷中央クリニック、中勝のみんなの診療所が載っています。奄美空港のある笠利から、龍郷や名瀬方面へ移動する旅の途中でも、近くに備蓄のある医療機関があることがわかります。電話番号は一覧に載っているので、スマートフォンに控えておくとよいでしょう。
鹿児島県のハブ対策のページでも、ハブ抗毒素配備医療機関の一覧が公開されています。一覧は日付時点の情報なので、旅行の前に最新のものを確認しておくと確実です。
『ハブダス2026』によると、令和7年のハブ咬傷者は43名で、奄美大島が26名、徳之島が17名でした。月ごとのグラフでは1年を通して事故が起きており、特にハブが活発になる6月や9月に多いとされています。同じ年のハブの買上数は、奄美大島で16,632匹、徳之島で7,156匹、合わせて23,788匹でした。
咬まれた部位は、手首・手の甲・指が全体の50%以上を占めます。草刈り中に隠れていたハブに手を咬まれる例が多く、ハブを扱っているときに不注意で足首などを咬まれる例も多いとのことです。咬まれた場所はほとんどが屋外ですが、家の中での咬傷も12%あり、戸締まりや家の隙間の対策が必要だと書かれていました。
旅行者が草刈りをすることはあまりありませんが、草むらに手を入れない、落ちている物を不用意に拾わないといった心がけは同じです。宿の周りでも、夜は窓や戸を開けっぱなしにしないようにしましょう。
最近の月の様子も見てみます。ハブ対策推進協議会のハブ情報(令和8年5月分)によると、その月の咬傷事故は奄美大島で1名、徳之島で2名の合計3名で、場所は大和村と徳之島町、内訳は草刈り中、雑用中、除草中が1名ずつでした。奄美市の来島者向けパンフレットに載っている令和2年の数字は、奄美大島12名、徳之島15名です。年によって増減はあっても、毎年のように咬まれる人が出ていることがわかります。
まとめ:笠利でハブに備える5つのポイント
ハブは、奄美大島の自然の一部として、今も身近にいる生き物です。最後に、笠利の旅でハブに備えるためのポイントを5つにまとめておきます。
- ハブは奄美大島・加計呂麻島・請島・与路島・徳之島にすみ、奄美群島では年間40人前後が咬まれている。令和7年には11年ぶりの死亡事故もあった
- 18〜30℃で活発になり、4〜6月と9〜10月が盛んな時期。冬眠せず、夜や雨の日中にも出て、木にも登る
- 道の中央を歩く、草むらに入らない、夜は照明を持つ。見つけたら1.5メートル以上離れる
- 咬まれたら走らず安静にし、助けを呼んで、すぐに医療機関へ。先に電話すると抗毒素の準備が早くできる
- 笠利には笠利国民健康保険診療所と笠利病院など、抗毒素を備える医療機関がある。最新の一覧を旅の前に確認する
ハブがいると聞くと、夜の散歩や自然の中を歩くのをためらうかもしれません。けれども、島の人たちが昔から守ってきた心得を知っていれば、必要以上に怖がることはありません。ライトを持って道の真ん中を歩き、草むらには入らない。この基本を忘れずに、笠利の海や星空を楽しんでください。