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奄美大島を旅していると、「世界自然遺産」という言葉をよく目にします。でも、「どこからどこまでが世界遺産なの?」「奄美大島のほかにどの島が含まれているの?」「どんな生き物がいるから選ばれたの?」と聞かれると、意外と答えられないかもしれません。
この記事では、環境省の「日本の世界自然遺産」のページと報道発表資料、鹿児島県の公式ページの説明をもとに、「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」の4つの地域と、それぞれの代表的な生き物を整理しました。旅の前の予習に使ってくださいね。
※施設の開館状況や自然観察のルールは変わることがあります。出かける前に各施設や自治体の公式情報を確認してください。
奄美の世界自然遺産の基本
いつ登録された?
環境省の報道発表資料によると、オンラインで開催された第44回世界遺産委員会拡大会合で、「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」の審議が行われ、日本時間の2021年7月26日(月)18時42分に、世界遺産一覧表への記載が決定されました。
決議の概要では、自然遺産の記載基準のうち「生物多様性」の基準に合致するものとして記載する、とされています。
登録までの道のり
鹿児島県の公式ページでは、登録に向けたこれまでの経緯が紹介されています。
| 時期 | 出来事 |
|---|---|
| 平成15年5月 | 世界自然遺産の候補地として選定 |
| 平成25年1月 | 国が世界遺産暫定一覧表に記載を決定 |
| 平成29年2月 | ユネスコ世界遺産センターへ推薦書を提出 |
| 平成30年5月 | IUCNが「記載延期」が適当と勧告 |
| 平成30年6月 | 国が推薦を取り下げ |
| 平成31年2月 | 推薦書を再提出 |
| 令和3年5月 | IUCNが「記載」が適当と勧告 |
| 令和3年7月 | 世界遺産一覧表への記載が決定 |
環境大臣の談話(環境省の報道発表資料に添付)では、候補地となって以来、登録まで18年にも及ぶ長い道のりだった、と振り返られています。
登録区域の広さと気候
環境省のページによると、登録区域は、鹿児島県の奄美大島と徳之島、沖縄県の沖縄島北部と西表島の4つの地域(徳之島は2つの登録区域からなる)で構成される、約42,700haの陸域です。
日本列島の南端部に位置する琉球列島の一部の島々で、黒潮と亜熱帯性高気圧の影響を受けた温暖・多湿な亜熱帯性気候です。主に常緑広葉樹多雨林に覆われていて、亜熱帯域に多雨林が発達するのは世界的にもまれで、この地域の大きな特徴だと説明されています。
登録された4つの地域
ここからは、環境省のページで紹介されている生き物を中心に、4つの地域を順番に見ていきます。
1. 奄美大島
環境省のページによると、登録区域のなかで最も標高が高いのは、奄美大島の湯湾岳(標高694m)です。日射量が限られ空中湿度が高い雲霧林があり、コケ類やラン、シダ植物などが生育する豊かな森林が形成されています。また、国内でまとまった面積のマングローブ林が見られるのは琉球列島のみで、奄美大島の住用川河口のものがその北限とされています。
代表的な生き物として、次のような種が紹介されています。
- アマミノクロウサギ:奄美大島と徳之島の固有種。1属1種で近縁種は存在せず、現存するウサギの中で最も原始的な姿といわれている
- ルリカケス:奄美大島とその周辺離島にのみ生息する固有種。ハトより小型で、美しい瑠璃色の羽をもつカラスの仲間
- アマミイシカワガエル:奄美大島の固有種。緑色の地に金色の斑紋が鮮やかで「日本で最も美しいカエル」といわれている
- ケナガネズミ:奄美大島、徳之島、沖縄島の固有種。日本の在来ネズミ類のなかで最大で、体の表面に長さ6センチに達する剛毛をもつ。夜行性で主に樹上で生活している
- イボイモリ:奄美大島、徳之島、沖縄島などに生息する琉球列島の固有種。イモリの中では最も原始的な形態をとどめているといわれている
2. 徳之島
徳之島には井之川岳(標高645m)があり、ここにも雲霧林が見られると紹介されています。徳之島の登録区域は2つに分かれているのが特徴です。
アマミノクロウサギは、奄美大島と徳之島の固有種です。また、徳之島の固有種のトカゲモドキの仲間は、沖縄島に生息するクロイワトカゲモドキと種分化により生じた近縁種だと説明されています。アマミマルバネクワガタも、奄美大島と徳之島の固有種です。
3. 沖縄島北部
沖縄島北部には与那覇岳(標高503m)があります。環境省のページでは、次のような生き物が紹介されています。
- ヤンバルクイナ:沖縄島北部の固有種で、日本で唯一、飛翔能力のない鳥類
- ヤンバルテナガコガネ:沖縄島北部の固有種。体長5〜6cmで日本最大の甲虫
- オキナワセッコク:沖縄島北部の固有種。大径木の樹上に着生するランで、冬季から春季に開花する
4. 西表島
西表島には古見岳(497m)があり、仲間川、浦内川、後良川などの河口にマングローブ林が発達しています。
- イリオモテヤマネコ:大陸に分布するベンガルヤマネコの亜種で、西表島の固有亜種。西表島は「ヤマネコの生息する世界最小の島」として知られている
- カンムリワシ:日本では石垣島と西表島に固有亜種が生息
- ヤエヤマセマルハコガメ:西表島と石垣島の固有亜種で、天然記念物
4つの地域に共通する生き物
環境省のページでは、コケタンポポが登録区域の4島の固有種として紹介されています。渓流の岩場に生育し、草丈3〜5cmで、直径1.5mm程度の小さな花をつけます。この地域では頻繁な降雨により、川の中上流部に周期的に冠水する渓流帯が形成され、そこに適応した「渓流植物」には琉球列島の固有種や絶滅危惧種が多く含まれている、と説明されています。
4つの地域のまとめ
| 地域 | 県 | 主な山 | 代表的な生き物 |
|---|---|---|---|
| 1. 奄美大島 | 鹿児島県 | 湯湾岳(694m) | アマミノクロウサギ、ルリカケス |
| 2. 徳之島 | 鹿児島県 | 井之川岳(645m) | アマミノクロウサギ、トカゲモドキの仲間 |
| 3. 沖縄島北部 | 沖縄県 | 与那覇岳(503m) | ヤンバルクイナ、ヤンバルテナガコガネ |
| 4. 西表島 | 沖縄県 | 古見岳(497m) | イリオモテヤマネコ、カンムリワシ |
なぜ世界自然遺産に選ばれた?
小さな面積に多くの種
環境省のページでは、登録区域の面積は日本の国土面積の0.5%に満たないにもかかわらず、日本の動植物種数に対して極めて大きな割合を占める種が生息・生育している、と説明されています。
| 分類 | 種数 | 日本全体に対する割合 |
|---|---|---|
| 維管束植物 | 1,819種 | 26% |
| 陸生・陸水性の脊椎動物 | 約740種 | 約57% |
| 昆虫類 | 約6,150種 | 約21% |
この中には、IUCNレッドリストに掲載されている世界的な絶滅危惧種95種のほか、環境省のレッドリストに掲載されている540種以上の絶滅危惧種が含まれています。
固有種の割合がとても高い
ここでしか見られない固有種も多く、陸生哺乳類では62%、陸生爬虫類では64%、両生類では86%と極めて高い固有種率を示している、とされています。サワガニ類はすべてこの地域の固有種です。
島の成り立ちと生き物の進化
環境省のページによると、琉球列島はかつてユーラシア大陸の東端を構成していましたが、地殻変動によって大陸から鎖状に分離し、小さな島々からなる列島が形成されました。島々に陸の生き物が隔離され、独特で豊かな生物相を形成しながら進化してきたため、海を越えにくい飛翔能力のない動物や植物で固有種が多いのが特徴です。
昔は大陸にも広く分布していた生き物が島に隔離され、昔ながらの姿をとどめて生き残ってきた「遺存固有種」(アマミノクロウサギ、ケナガネズミなど)と、それぞれの島の環境に適応して独自の進化を遂げた「新固有種」(トカゲモドキ類、ハナサキガエル類など)が、代表的な固有種として挙げられています。
自然を守るための取組
日本の自然遺産で唯一の緩衝地帯
環境省のページでは、登録区域を含む4島は有人島で、野生生物の生息・生育環境と住民生活の場が近いため、日本の自然遺産で唯一、緩衝地帯(バッファーゾーン)を設定している、と説明されています。さらに、外来種対策などを行う「周辺管理地域」も設定されています。
マングースバスターズ
奄美大島と沖縄島北部では、外来種のマングースを駆除するために、各島30名前後のチーム(マングースバスターズ)を編成し、マングース探索犬も導入して捕獲とモニタリングを行っています。奄美大島では2019年度・2020年度は1頭も捕獲されず、根絶に近い状況になっている、と紹介されています。
飼い猫のルール
環境省のページによると、世界遺産登録区域ではネコによる希少種の捕食が確認されていて、希少種への病気の感染による影響も心配されています。そこで、4地域すべてで飼い猫の適正飼育に関する条例が制定され、飼い主の情報を登録したマイクロチップの装着や、室内飼育の徹底が進められています。
密猟を防ぐパトロール
沖縄島北部では、林道の利用状況の把握と違法採集防止の声かけのため、環境省、沖縄県、国頭村森林組合、地域住民が連携して林道パトロールを行っている、と紹介されています。旅行者も、植物や生き物を持ち帰らないようにしましょう。
旅行者も気をつけたいこと
4地域では、アマミノクロウサギ、ヤンバルクイナ、イリオモテヤマネコなどのロードキル(交通事故)対策として、注意看板や柵の設置、交通事故防止キャンペーンなどが行われています。レンタカーで島をめぐるときは、注意看板のある道路ではスピードを控えめにして、生き物の飛び出しに気をつけましょう。
また、4地域すべてで観光のルールなどを定めた計画が作られています。西表島では、2020年4月に施行された「竹富町観光案内人条例」により、自然観光ガイド事業を行うための免許取得や講習の受講が義務化されている、と説明されています。
奄美の世界自然遺産のよくある質問
奄美大島で自然について学べる施設は?
環境省のページでは、2022年に環境省が設置した「奄美大島世界遺産センター」が紹介されています。奄美大島の森と生き物を、実際にフィールドを歩いているように体感できる再現フィールドや、自然を守るための取組やルールの展示コーナーがある、と説明されています。2000年に環境省が設置した「奄美野生生物保護センター」もあります。
ほかの島の施設は?
沖縄島北部には、やんばる野生生物保護センター「ウフギー自然館」(1999年環境省設置)と、ヤンバルクイナ生態展示学習施設(2013年国頭村設置)があります。西表島には、西表野生生物保護センター(1995年環境省設置)があります。
アマミノクロウサギはどのくらい珍しい?
環境省のページでは、アマミノクロウサギは環境省版レッドリストで絶滅危惧ⅠB類(近い将来における野生での絶滅の危険性が高いもの)とされています。
奄美の世界自然遺産の4つの地域を知って旅に出よう
最後に、ポイントをまとめます。
- 2021年7月26日に、世界遺産一覧表への記載が決定
- 登録区域は奄美大島、徳之島、沖縄島北部、西表島の4つの地域で、約42,700haの陸域
- 国土の0.5%未満の面積に、多くの種と高い割合の固有種が暮らしている
- 緩衝地帯の設定やマングース対策、ロードキル対策などで自然が守られている
4つの地域の生き物を知っておくと、森の音や道路の看板も、ちょっと違って見えてきます。世界遺産センターで予習してから森へ出かけるのも楽しいですよ。